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サキュバスちゃんの純情《長編》
第2章 週末の終末
その心意気と考え方は嬉しいけど、がっついて欲しいときもあるんです! 狼に迫られたいんです! 羊のままじゃダメなんです! 女としては!
会話が途切れたときに、自然と見つめ合って、唇が触れ合って、そのまま押し倒されて、「ヤダもう、バカ」って言いながらキスを受け入れて……というシチュエーションが必要なときがあるんですよ!
「わかる! 男の人って話を聞いてくれないから、そういうのステキ」
いや、もう、日向さんはほんと黙ってて。セックスを「エッチ」なんて言う女は、私、信用できないから。できないからー!
「荒木さんの考えは確かにステキだけど、恋人には向かないわね」
「確かに。友達でいいよね」
「愚痴の言える男友達としては最高。手ぇ出してこないんだもの」
派遣さんたちの容赦のない評価に、私も同意する。
荒木さんの考え方は、男友達としては最高だ。恋人としては、物足りない。圧倒的に「狼」の部分が足りないのだ。
「だからお前は、付き合ってもすぐ別れるんだよ! いつまで経っても彼女ができないんだよ! いいお友達で終わるんだよ!」
美山さんの発言に、日向さん以外の女性陣と営業部の男性陣は、皆頷いていた。それが世間の「一般」であるのに、荒木さんは相変わらず困った顔のまま、笑っていた。
「月野さん、飲み過ぎ。もうカシスオレンジ飲んじゃったの? もう烏龍茶しか飲んじゃダメよ」
なんで、セックスが必要な私の好きな人が、こんなに性欲の薄い人なんだろう。
たとえ、荒木さんに振り向いてもらえたとしても、食欲は満たされないということじゃないの。他の誰かで食事をしなければならないということじゃないの。
そんなの、不毛すぎる。
悲しすぎて、涙が出そう。
「あ、こら、バカ! 月野さん、これ焼酎……!!」
佐々木先輩の制止を無視して、彼女の小さなグラスを奪って飲む。喉が焼けるように熱かったけど、気にしない。世界がぐるぐる回って、佐々木先輩の顔が四つ五つ六つに増えようが、気にしない。気にしないのだ。