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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白
翌日、ドキドキしながら出社したら、何もかもが普通だった。
佐々木先輩はいつも通り仕事には厳しく、テキパキ資料に目を通していたし、荒木さんは朝の会議のあとにすぐアポを取ってあった営業先へと出かけていった。
拍子抜けするくらい、いつも通りだった。
違うのは、佐々木先輩のネックレストップにシンプルな指輪が増えていたことと、出先から荒木さんのメッセージが届いたくらい、だ。
『おはよう。今朝渡した資料は明後日までにお願い』
そんなの、出かける前に一言言ってくれたらいいのに。「伝えるのを忘れていた」と装って送られてきたメッセージに、返事を催促されているようでドキドキしてしまう。
こんなのが毎日続いたら、心臓が保たない。早く決着をつけなければ!
……と、思ったのに、こういう日に限って、荒木さんは定時まで帰ってこないし、佐々木先輩も昼休みはどこかへ行ってしまうし、定時になったらすぐ帰ってしまう。
唯一の救いは、今日待ち合わせをしている相馬さんからのメッセージだ。
『おつかれー! 居酒屋予約したから、行こう!』
この気楽さ、である。
こういうときに、気取らずに接することができる人は貴重だ。大変ありがたい。
指定された駅に着くと、大きな紙袋を持った相馬さんがスーツ姿で立っていた。彼は私を見つけると、二ヘラと笑う。その屈託のない笑顔が好きだ。
「ごめんねー、平日なのに呼び出しちゃって」
「大丈夫だよ。お土産、日持ちしないんでしょ?」
「あ、そうじゃないんだけどさー」
駅の近くのチェーン店の居酒屋は、平日の比較的早い時間ということもあってか、そこまで混んでいない。個室に座り、ビールとツマミを注文する。
だし巻きはどうやら店で作っているのではなさそうだから、注文するのはやめておく。たぶん、美味しくないやつだ。