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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白

「うぅ、緊張するなぁ。課長で練習してから、行ってみる」
「はいはい、行ってらっしゃい」

 佐々木先輩に送り出されて、日向さんは営業部長と課長に「交流会への参加、よろしくお願いします」と声をかけながらプリントを配る。
 そして、そのあと、いつもならまっすぐ荒木さんのデスクに向かうのに、今回は彼がいないため、もじもじしながらある人のデスクへ向かう。

「あ、あの、美山さん、良かったら、秋の交流会に参加していただきたいのれすが」
「あ、日向さん、おはよう。そこ置いといて」

 日向さんが噛んだことにも気づかず、美山さんは山積みになったファイルの上をペンで指し示す。どうやら、何かに集中しているようだ。

「あの、荒木くんも来るんですけど」
「んー、わかった。検討しておくよ」

 美山さんにプリントも見られずにあっさりそう言われて、日向さんは真っ赤な顔のまま、がっくりと肩を落とした。
 佐々木先輩……あの、もしかしたら、ひょっとして? 「男の趣味が悪い」らしい日向さんの好きな人って?

「ほんと、なんで美山さんなのかしら」
「……」
「アレ、絶対脈ないわよ。美山さん、数字しか頭にない営業の鑑(かがみ)のような人だもの。損得勘定でしか動かないわよ。そう思うでしょ、月野さんも」

 ええと、どうやら、日向さんの好きな人は美山さんで間違いなさそうです。

 なるほど、確かに、美山さんは数字が大好きな営業マンだ。損得勘定が大好き。資料も、数字がしっかり出ているものを好む傾向がある。曖昧なデータだとすぐやり直しになるから、彼の資料を作る際は必ず佐々木先輩に確認してもらっているくらいだ。

 そして、美山さんは荒木さんが出席しない飲み会や行事には基本的には参加しない。絡みやすくいじりやすい荒木さんがいないと、自分が気持ち良く飲めないからだ。

 荒木さんの近くにいれば美山さんとの接点も増える、と考えるのはいいアイデアかもしれない。だから、日向さんは荒木さんにベッタリだったのか。美山さんとの仲を取り持ってもらうために。

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