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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白
「そう、ですねぇ……」
「あの子、アプローチの方法を間違えてるのよね。荒木さんと同じ考え方や行動をすれば、美山さんに好かれると思い込んじゃって」
「あぁ……なるほど」
だから、荒木さんの考えに同調したり、彼と一緒に行動したりしていたのか。
確かに、二人の仲はいいけれど、美山さんが荒木さんのそういうところが好きだとか気に入っているとかいうわけではない。得をするから仲良くしているだけなのだ。本当に、損得だけで動いているのが、営業部の美山さんだ。
「美しく何もない山で美山です」と笑いながら自己紹介したら、絶対に名前は覚えてもらえる、と自分のハゲさえ営業のネタにする人なのだから。
私は荒木さんしか見えていなかったから、全然気づかなかった。日向さんの気持ちを知らなかった。
日向さんが去っていったことを確認してから、美山さんは秋の交流会のプリントを荒木さんのデスクにポイと無造作に移動させた。参加か不参加かは、荒木さんに委ねるということだろう。損得勘定は保留のようだ。
日向さんの努力が報われていない気がして、私は少し彼女を気の毒に思った。彼女が努力の方向を正すことができるのは、いつになることやら。
『ありがとう。さすが月野さん。仕事が早いね。あとで確認しておくよ』
パソコンのポップアップが出てきて、荒木さんからメールが届いたことを知らせてくれる。今は休憩中か移動中らしい。返事が早かった。
『明日の夜、時間ある? 夕飯、どう?』
メールの最後の文に、ドキドキする。ヤバい、手汗が酷い。めちゃくちゃ緊張する。ハンカチで手を拭いたあと、キーボードに向かう。
『明日の夜、大丈夫です』
明日の夜、がリミットだ。
明日の夜までに、何とか、考えよう。
波風立てないように、断る方法を。