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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白

「同僚かぁ……え、まさか、荒木さん?」
「ブハッ」
「やだ、ちょっと、月野さん、図星?」
「ち、ちが……っ」

 テーブルに散らばったご飯粒をティッシュで拭き取りながら、佐々木先輩はニヤニヤ笑う。私もさっきまでこんな顔をしていたのか……。
 ペットボトルのお茶を飲みながら、気持ちを落ち着ける。

「営業成績のいい営業マンは口が達者だから、断るのは至難の業ね。かなり頑張らないと、押しに負けてしまうわよ、月野さん」
「だから、違いますって」
「荒木さんは底が見えない人だから、どうなるかわからないわね」
「ですから」
「友達の話、が本当に友達の話なわけないじゃない。月野さんたら」

 ほんと、佐々木先輩には敵わない。
 箸を置いて、深呼吸する。佐々木先輩は、笑っている。
 ……本当に、敵わないなぁ。

「……彼氏も大事だし、荒木さんも大切な人なんです。本当に、困ってしまって」
「断ったとしても、荒木さんはそれを仕事には持ち込まないと思うわよ? そこまで子どもじゃないでしょ」
「そうだといいんですけど……」
「まぁ、嫌がらせされるなら、そこまでの男と割り切って、年末の更新をやめちゃえばいいだけでしょ? 月野さんならどこへ行っても、どこの会社へ派遣されても、大丈夫よ」

 佐々木先輩からそう言ってもらえると心強い。サキタは働きやすかったから、あまり辞めたくはないんだけど、私のスキルがどこへ行っても通用するのなら、それも考えておかなければならないということか。
 荒木さんから離れるために。

「彼氏が好きです、荒木さんとは付き合えません、で貫くことね。下手に説明や言い訳なんかしちゃダメよ。相手は営業マンなの」
「は、はい」
「こう言われたらこう切り返す、と頭の中でシミュレーションしておきなさいね。丸め込むのだけは上手なんだから、隙は見せないように」
「わかりました!」

 勉強になります、と頭を下げた私だったけれど、たぶん、どこかで「まぁ、大丈夫だろう」と考えていた。翔吾くんのことが好きだと必死で伝えれば、荒木さんもきっとわかってくれる、と。

 私は、まだまだ、甘かったのだ。

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