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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白

「洋梨のタルト美味しいですね」
「リンゴのタルトも美味しいよ。ブルーベリーケーキも好きなんだ。スポンジにブルーベリージャムが練り込まれているから、それだけで美味しいんだ」
「あ、じゃあ、次食べてみます」
「是非」

 こうして話をしているだけなら、とても居心地が良い。
 やっぱり、好きだなぁと思う。笑顔とか、食べ方とか、話し方とか。

 でも、それだけじゃダメなんだということもわかっている。普通の人間ならそれでいい。好きだなぁという気持ちに素直に従えばいい。
 残念ながら、私はサキュバスで、どうしたって精液が必要なのだ。週に一回は精液が欲しいのだ。

「あの、荒木さん」

 意を決して、ストレートの紅茶を飲む荒木さんを見つめる。彼は真っ直ぐ私を見つめていた。
 その目、やっぱり叡心先生にも、旭さんにも似ている。困ったように笑うのも、そっくり。
 私は、その顔が好きなんだ。顔だけが。

「私、翔吾くんとは別れられません。彼のことが好きです。荒木さんを尊敬はしていますが、やっぱりどうしても、尊敬以上の感情は抱けなくて……その、荒木さんのお気持ちはありがたいんですけど」

 ――お断りいたします。
 ティーカップを置いて、荒木さんは笑う。

「うん、そうだね。そうだと思ってた。初恋の人に似てるとは言っても、俺はその人じゃない。翔吾は良いやつだし、イケメンでお金も持ってる。最初から、勝ち目はないってわかっていたよ」

 じゃあ、諦めてくれるんだ……良かった。
 私はホッとするけれど、荒木さんの表情が変わっていないのに気づく。笑顔のまま。寂しいとか、悔しいとか、そういう顔じゃない。
 笑って、いる。

「でも、どうしても、諦められないんだよね、月野さんのこと」

 笑っている、はずなのに、笑ってはいない。ただ、じいっと私を見つめ、捕食の機会を窺っている。そんな、目。
 叡心先生も旭さんも、そんな目をしたことがない。だから、初めて見る表情に私は戸惑うしかない。

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