この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白
「洋梨のタルト美味しいですね」
「リンゴのタルトも美味しいよ。ブルーベリーケーキも好きなんだ。スポンジにブルーベリージャムが練り込まれているから、それだけで美味しいんだ」
「あ、じゃあ、次食べてみます」
「是非」
こうして話をしているだけなら、とても居心地が良い。
やっぱり、好きだなぁと思う。笑顔とか、食べ方とか、話し方とか。
でも、それだけじゃダメなんだということもわかっている。普通の人間ならそれでいい。好きだなぁという気持ちに素直に従えばいい。
残念ながら、私はサキュバスで、どうしたって精液が必要なのだ。週に一回は精液が欲しいのだ。
「あの、荒木さん」
意を決して、ストレートの紅茶を飲む荒木さんを見つめる。彼は真っ直ぐ私を見つめていた。
その目、やっぱり叡心先生にも、旭さんにも似ている。困ったように笑うのも、そっくり。
私は、その顔が好きなんだ。顔だけが。
「私、翔吾くんとは別れられません。彼のことが好きです。荒木さんを尊敬はしていますが、やっぱりどうしても、尊敬以上の感情は抱けなくて……その、荒木さんのお気持ちはありがたいんですけど」
――お断りいたします。
ティーカップを置いて、荒木さんは笑う。
「うん、そうだね。そうだと思ってた。初恋の人に似てるとは言っても、俺はその人じゃない。翔吾は良いやつだし、イケメンでお金も持ってる。最初から、勝ち目はないってわかっていたよ」
じゃあ、諦めてくれるんだ……良かった。
私はホッとするけれど、荒木さんの表情が変わっていないのに気づく。笑顔のまま。寂しいとか、悔しいとか、そういう顔じゃない。
笑って、いる。
「でも、どうしても、諦められないんだよね、月野さんのこと」
笑っている、はずなのに、笑ってはいない。ただ、じいっと私を見つめ、捕食の機会を窺っている。そんな、目。
叡心先生も旭さんも、そんな目をしたことがない。だから、初めて見る表情に私は戸惑うしかない。