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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白
荒木さんは、営業部でも結構成績がいいほうだ。
彼の先輩である美山さんがきちんと目をかけているという点もあるだろうけれど、それを抜きにしても、入社四年目の同期の中のトップであり、五年目六年目の先輩方の成績なんて簡単に抜いてしまうほどの営業力の持ち主だ。
イトイから仕事をもらうようになったのは、彼の手腕があったおかげだと聞いているし、イトイと馴染みのある会社や子会社からも仕事を受注するようになったのも、彼がルートを開拓したおかげだと聞いている。
そんな荒木さんに憧れる後輩から「営業のコツは何ですか?」と聞かれたときの彼の回答を、私はずっと覚えている。
「俺、三回はしつこく食い下がるから。覚悟しておいて」
――三回は押せ。諦めるな。しかし、三回ダメなら四回目には繋がらない。手を変えるか、潔く諦めろ。
それが、荒木さんの助言だった。
「……これは、営業ですか?」
「俺の将来のための、ね」
隣を歩く荒木さんは、いつも通りの表情だ。けれど、横顔は少し意地悪く見える。
「驚いた?」
「……はい」
意地悪そうな顔に見下ろされて、頷く。
驚いた、どころじゃない。本当に、何のスイッチが入ったのかと思った。
だって、いきなり豹変するんだもの。
けれど、荒木さんは、妹尾さんとは違い、強引にどこかへ連れ込んで……ということは考えていないようだった。どうしようもない性欲に煽られているわけではなさそうなのだ。
でも、既に狼の顔をしている荒木さんに、家まで送ってもらうのは、やっぱり辞退しておけば良かったかもしれない。
……そのあたりが「隙」なんだろう、私の。
「送らせて」を三回言われる前に折れてしまって、「月野さんは押しに弱すぎる」と荒木さんに笑われてしまったくらいの迂闊さだ。