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サキュバスちゃんの純情《長編》
第2章 週末の終末

 まるで雲の上にいるかのような浮遊感。いい匂いがして、暖かくて気持ちがいい。
 二日酔いはしんどいけど、お酒を飲んだあとにこんな幸せな気分になれるのなら悪くない。

「……んう」

 街灯に照らされた地面が揺れている。ぼんやりとした頭でキョロキョロとあたりを見ると、私の住んでいるアパートの近くだとわかる。

「目、覚めた?」

 下から声が聞こえてきた。下から。荒木さんの声。
 頭からサァッと血の気が引いていく。
 ……一瞬で、覚醒、しました。

「っえ!? あ、あ、あら、き、さ!?」
「月野さん、飲み過ぎ。佐々木さんから住所聞いて、今送ってるとこだよ」
「えええ!? すみません、すみません、すぐ降りますから!」

 私は荒木さんにおんぶされていた。道理で幸せな気分になっていたはずだ。好きな人の背中で眠りこけていたなんて、申し訳ないんだけど、幸せすぎる。
 しかし、ジタバタしても彼が降ろしてくれる気配はない。

「あと少しでしょ? 送っていくよ」
「でも、そんな、悪いです」
「大丈夫。さっきまでタクシーだったし、こう見えてジムにも通っているんだから」

 ふふんと得意そうな声。その得意そうな顔も見たいけど、贅沢は言わない。こんなに近くで声が聞けるだけで、触れ合えるだけで、幸せ。
 あああ、もう! 佐々木先輩、グッジョブです!!

「月野さんち、俺と同じ方向だったし、送り狼にはならないだろうと判断されて、俺が送ることになったんだよ」

 送り狼……あぁ、でしょうね、性欲の薄い荒木さんには似合わない言葉ですもんね。間違いない人選だと思います。女としては悔しいですが。
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