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サキュバスちゃんの純情《長編》
第2章 週末の終末
私の荷物は彼の肩にかかっている。太腿を抱えてくれている腕が、熱い。背中が熱い。ドキドキする。
いい匂いがする。翔吾くんのような香水の匂いではない。たぶん、荒木さんの体臭だ。嫌な匂いじゃない。
「ありがとうございます。重いでしょう? 本当にすみません」
「え、軽いよ。ビックリしたよ。月野さんはもう少し太らないと……あ、ごめん、セクハラになるかな。今のナシで」
「だ、大丈夫、です……」
ありがとうございます、と小さく呟く。
今、私、きっと真っ赤だ。荒木さんの顔を見たいけど、今は振り向かないでほしい。
あぁ、本当に、今このまま時が止まってしまえばいいのに。好きな人におんぶされたまま、止まってしまいたい。
「えっと、ここかな?」
「あ、はい、そうです、ここです」
無情にも、時間は過ぎる。
三階建ての小さなアパートが私の住処だ。ワンルームだけど、浴室とトイレが別になっているのが嬉しい。
「こ、ここで大丈夫ですっ」
「はい。じゃあ、カバン」
荷物を手渡してもらい、フラフラしながら地面に立つ。多少お酒は醒めたみたいで、視界は思ったほど回っていない。部屋まで戻ることはできそうだ。
「あ、ありがとうございました!」
「いいよ、いいよ。お礼は仕事で返してくれたらいいからね」
なんてスマートなお礼の断り方! 「今日のお礼に食事でも」なんて誘えなくなってしまったじゃないの!
荒木さんのそういうフラグクラッシャーなところ、狙っているのか天然なのか、彼の笑顔からは本当に判断がつかない。罪な人だ。
「でも、タクシー代のこともありますし、そういう、わけにはいかないのでっ」
頑張ってる。
私にしては頑張ってる。
めちゃくちゃ勇気だしてる。
指も声も震えてる。
「今度、あの、一緒に、おい、美味しいケーキのあるカフェに行きませんかっ!」
噛んだ恥ずかしさから、最後はめちゃくちゃ早口になってしまった。荒木さん、聞き取れただろうか。