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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白

 アパートを見上げ、荒木さんが大きく溜め息を吐き出す。そして。

「月野あかりさん」
「は、はいっ」
「翔吾と別れて」
「無理ですっ」

 我ながら、清々しいほどの拒絶の言葉だった。にも関わらず、荒木さんは苦笑するだけだ。
 絶対、本気だと思われていない。

 好きな人がセックス嫌いではなかったと聞いて、確かに嬉しくは思ったけれど、毎回SMプレイがメインになるセックスは、ちょっと勘弁してほしいです!
 月イチくらいなら何とかなるかもしれませんが、毎週はちょっとつらいです!
 相馬さんと同じかそれ以上のプレイを要求されたら、本当にしんどいです!

「どうしても?」
「どうしても、です」
「俺のこと嫌い?」
「嫌い、では、ない、です、けど」

 ジリジリと距離が近くなる。私は後ずさるしかない。
 とは言っても、駐車場のないアパートだ。すぐ近くに壁が迫っている。

「こうやって迫られるのも、本当は嫌いじゃないでしょ?」
「……あ、あの」
「ほんと、煽るの得意だよね、月野さん。怯えたら俺が喜ぶだけだって言ってるのに」

 背中に冷たい感触。背後の壁が、逃げることを許さない。
 荒木さんでなければ、殴って、蹴って、逃げ出してしまっているところなのに。
 荒木さんだから、それができない。たかが派遣社員が正社員に暴力を振るったりしたら、それこそ終わり。アウト。佐々木先輩より先に退職する羽目になる。

 それに、やっぱり、好きな人に性的に求められると――サキュバスとしての本能が、囁くのだ。
 受け入れろ、流されてしまえ、と。
 それが、妹尾さんとの決定的な違いだ。


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