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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白
「はい、そこまで」
バチンと手を叩く音と無遠慮な声が近くから聞こえてきた。
そっと目を開けると、荒木さんは「何コイツ」みたいな表情で声の主を睨んでいる。その視線の先をたどり、驚いて息を呑む。
「……誰?」
「ケント、く……?」
「あかりちゃんから離れて」
冷たい目をした美少年がそこに立っていた。仁王立ちだ。腕まで組んで、娘を心配する父親のような形相で睨んでいる。
……ええと、怒っているようだ。
「月野さん、彼は?」
「あ……遠縁の親戚です」
セフレです、とは口が裂けても言えない。とにかく、今は言えない。
サキュバス・インキュバスに血縁なんてないんだろうけど、同族であることに変わりはない。当たらずも遠からずといったところだろうと、自分でも納得する。
「ケントくん、彼は同僚の荒木さん。ここまで送ってもらったの」
「ふぅん。送ってもらった、ねぇ」
疑いの目で荒木さんをジロジロ見て、不機嫌が直らないケントくんは、ぐいと私の手を引いた。
そして、私を背中に隠すようにして、荒木さんの前に立ちはだかる。
ケントくんのほうが荒木さんより背が高く、荒木さんは見下ろされている形になる。
「それはどうもありがとうございました。でも、もう大丈夫なんでお引き取りください」
「うん、そうさせてもらうよ。月野さん、今日はありがとう。また」
「あ、はい。素敵なお店を教えてくださって、ありがとうございました」
形式的な挨拶を終えて、荒木さんが帰っていく。すんなり引き下がってくれて、本当に安心する。ホッと胸を撫で下ろす。