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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白

「何かあったの?」
「うん、ちょっと。合鍵、返してね」
「……えー、やだ」
「やだじゃない。もう二度と会わないよ」

 会わない、のはもっと嫌だったらしい。
 脱ぎ捨ててあったズボンのポケットから渋々合鍵を取り出して、ケントくんはふくれっ面のまま、聞いてくる。

「……また来てもいい?」
「私服で来てね。制服はダメ」
「わかった。道具は捨てないでね。気に入っちゃった」
「……それはわからないなぁ」

 ケントくんの食事に役立つなら置いておいてもいいけど、精液の出ない偽物は私にとっては必要ないものだ。
 合鍵を受け取って、チェストにしまう。ついでに、未使用の道具も中にしまう。

 食器は「僕が洗う」とケントくんが言ってくれたので任せる。その間に、水森さんにメッセージを送る。『わかりました』と、短く。
 そして、メッセージに記載されていた住所から、最寄り駅と乗り換えを調べる。三十分前後はかかるかな。

『湯川が風邪を引いて寝込んでいるようです。住所を教えておきます。看病しに行ってあげてはどうですか?』

 ほんと、余計なお世話だ。

『湯川と病院長の娘との縁談が進みつつあります。止めるなら今しかありませんよ』

 でも、ありがとうございます。その情報はありがたいです。

 湯川先生が会いに来られないなら、私から会いに行けばいいんだ。
 そんな簡単な話に、ようやく気づく。

 会いに行こう。
 フラれてもいいから、会いに行こう。

 好きな人に。

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