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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白

『結婚を前提に付き合って欲しい』

 今まで、いろんな人から言われてきたけれど、それに応じるつもりはなかった。だから、私は、そのときも同じように提案しただけだった。

『結婚も付き合うこともしません。ただし、セックスだけのお付き合いなら大歓迎です』

 彼は目を丸くして一瞬悩んだあと、参ったなと呟いて苦笑した。

『あなたの望む形で構いません。名前と連絡先を教えてくれませんか。私は湯川望、外科医です』

 差し出された手帳に名前と電話番号を書きながら、ただ、私はセフレが増えたことを喜んでいた。彼は特別若くはないけれど精液をたくさん出してくれる人だといいな、なんて、食事の――セックスのことだけを思いながら。

『……また、雪が降ってきましたね』
『寒いのは苦手です』

 湯川先生の声で窓の外を見ると、真っ白だった。風が吹き荒び、雪が舞う。吹雪だ。外に出たくなくなるくらいの。
 翔吾くん曰く「ものすごくダサい」もふもふジャケットを着てきて良かったと、心から安堵したことを覚えている。

『月野さん』
『あかり、でいいですよ』
『……今夜、というのは早すぎますか?』

 湯川先生の恥ずかしそうな笑みに、きゅんとしたのは事実。そして、その日はとても寒かったのも事実。
 寒い夜を、一人で過ごしたくはなかった。そんな理由で、誘いに乗った。

『暖めてくださいますか?』
『もちろん』
『では、今夜。連絡をお待ちしています』

 立ち上がると、握手を求められた。初めて触れた湯川先生の手のひらは熱く、どんなふうに私を抱いてくれるのか、期待してしまうくらいには優しい感触だった。

『よろしく、あかり』
『こちらこそ。湯川先生』

 それは、二月の、とてもとても寒い日のことだった。


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