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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白
ドラマで見る「お医者様の一人暮らしの家」は、翔吾くん健吾くんの住んでいるマンションみたく、たいてい高層マンションの広い部屋なんだけど、湯川先生が住んでいるところは、違った。
病院に近い住宅街の中にある、十二階建てのマンションは、特別お洒落ではない、地味な外観だった。意外だった。
マンションの横に停車している真っ黒いセダンの前を通り過ぎて、エントランスに入る。
管理人の姿もない。もしかしたら、平日だけ常駐しているのかもしれない。
時刻は十時。部屋を訪ねるのに非常識な時間ではない。
エントランスホールから湯川先生の部屋番号六〇一を押して、呼び出す。けれど、インターフォンに応答はない。眠っているのだろうか。
ふと人の気配を感じて顔を上げると、カツカツというヒールの音とともにエントランスの自動ドアが開いて、住人らしき綺麗な女性が通り過ぎていく。ふわり漂う香水は柑橘系。甘い匂いだ。
ドアが開いたので、入ってしまおうかと悩んだけど、悩んでいる間にドアが閉まってしまう。横着するな、ということだろう。
二回目を押しても湯川先生が出ないので、仕方なくスマートフォンを取り出して電話をかける。途中のスーパーで買ってきた食材が腕に食い込んで重い。
『……もしもし、あかり?』
「湯川先生?」
酷い声。風邪を引いて寝込んでいるというのは本当らしい。あまり喋らせたくなくて、早めに用件を伝える。
「今、マンションの下にいるんだけど、鍵を開けてもらえる? ゼリーとか食べられるもの持ってきたよ。顔見たらすぐ帰るから」
『え? は? あ、今の、あかり?』
「もう一回鳴らそうか? インターフォン」
『あ、うん、大丈夫。あかりだったのか……すぐ開けるよ』
自動ドアが開いたので、エレベーターに乗り、六階を目指す。どうやらこのマンションは各階に二部屋しかないらしい。六〇一号室はエレベーターを降りてすぐ左側にあった。
廊下からは柑橘系の匂いがする。あの住人はすぐ右側にある六〇二号室の人なんだろう。
扉の前のインターフォンを再度押そうとしたら、ガチャリと扉が開いた。