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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白
わかっている。
病院長の娘との縁談なら、湯川先生に拒否権はないはずだ。拒否したら、病院にいられなくなってしまう。それくらいはわかる。
それに、お父様を超えたい湯川先生は、出世したいはずだ。病院長の娘が妻になるなら、将来は安泰のはず。
いずれは大きな病院の院長。そして、心臓血管外科の権威。
私が、その華やかな将来を壊していいはずがない。邪魔をする権利もない。
私は、湯川先生のセフレでしかない。彼女ですらないのだから、彼の付き合いに口を出すことはできない。
潔く、フラれよう。
そう思いながら電車に揺られてきたはずなのに、実際に湯川先生を見てしまうと心が揺れる。実際に女の人の影を見つけてしまうと、心が乱される。
なんて自分勝手な女なんだろう、私は。最低だ。
流しには、コンビニ弁当の空きトレイとペットボトルがいくつか残っている。洗う気力も体力もなかったのだろう。普段几帳面な湯川先生がかなりしんどくなっている証拠だ。
冷蔵庫は案の定空っぽ。ビールと調味料くらいしかない。
買ってきた野菜やら玉子やらを入れて、果肉少なめの白桃ゼリーとスポーツドリンクだけ出しておく。果物の詰め合わせはとりあえず無視。触りたくない。
スプーンもコップも簡単に見つかったけど、トレイは見つからなかったので、手で持っていくとする。
寝室に入ると、大きめのベッドの縁に湯川先生が腰掛けていた。マスクも外してしまっている。寝ていて欲しかったのに。
寝室では香水の匂いがしなくて、ホッとする。……本当に、ホッとした。ここまでは入っていないみたいだ。
「横になってていいのに」
「……眠れるわけないよ。何で、ここに?」
「先生が風邪を引いたって、水森さんから聞いたよ」
「あいつ……ほんとに、もう」