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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白
「望」
「だから、あかり、ダ――」
もう、「ダメ」は言わせない。風邪なんていくらでも移してもいいから、最後にキスくらいさせてよ。
ぎゅうと抱きついて、唇と言葉を奪う。薄く開いた唇の隙間から、湯川先生の熱い舌を見つけ出す。
戸惑いながらも舌を絡めて来てくれる先生の、太腿の中央は硬く勃ってしまっている。
でも、それには触れないように気をつける。さすがに、最後だからと言って、病人を無理やり押し倒してしまうのは気が引ける。
「……あかり、どうしたの?」
「どうもしないよ。久しぶりに会えて嬉しいだけ」
嬉しいのは嘘じゃない。
どうもしないのは嘘。だって、不意に香ってくるこの匂い、やっぱり腹立たしくて仕方ない。
先生の頭や体からは匂いはしなかった。でも、パジャマからは薄っすらと柑橘系の匂いがするのだ。彼女が抱きついたのだろう。……もしかして、先生も抱きしめた?
先生に触れないで。
私の湯川先生に近づかないで。
私から、先生を奪わないで。
最後の最後で、そんなふうに嫉妬してしまう自分が惨めで情けない。
「……あかり、俺、実は」
「先生、ゼリー食べて、それ飲んで、寝て。その間に、温めるだけで食べられるもの作っておくから」
湯川先生が何か言いかけたのを遮って、指示を出す。
きっと、縁談のことだろう。さっきの彼女のことだろう。……別れ話のことだろう。
でも、今は聞きたくない。
もう、何も考えたくない。
私は我が儘だ。先生の口から「結婚することになった」なんて聞きたくなくなったのだ。心の準備はしてきたのに。バカみたい。