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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白
鮭とほうれん草のお粥、シラス入りのだし巻きと大根のスープを作り、寝室からゼリーの容器とコップを引き取って台所を片付けたところで、帰る予定だった。
書き置きを残し、帰る支度をして、最後にもう一回だけ先生の顔を見に寝室へ入った。
薄暗い寝室のベッドの上で、湯川先生は眠っている。呼吸はだいぶ穏やかになってきている気がする。ちゃんとご飯を食べて、栄養をつけてくれるといいんだけど。
ふと、サイドボードの写真立てを見てぎょっとした。中に入っていたのは、村上叡心の描いた裸婦像のポストカードだったのだ。箱根で見た、縁側に横たわる私の姿。綺麗な一枚だ。
このポストカードは、いつ買ったものだろう。薄暗くてはっきりとはわからないけれど、少し色褪せているような気がする。
まさか、高校生のときに買ったものだろうか。
先生は、こんなものを大事に大事に持っていてくれたのか。何年も、十何年も。
先生は、私のことが好きですか?
こんな愚かな女でも、まだ、好きだと思ってくれますか?
結婚するときに、ポストカードは持っていってくれますか? 飾ってくれますか?
……私のことを、忘れないでいてくれますか?
ダメだなぁ。
涙が溢れてきてしまう。先生の顔が滲んでよく見えない。
いつの間に、こんなに好きになっていたのか。別れを惜しむくらいの情を、いつの間に抱いていたのか。