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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白

「……せんせ、好き」

 零れた言葉が届かないことくらいはわかっている。わかっているのに、溢れてしまう。
 掛け布団からはみ出た左手を直そうとして、そのまま握る。熱くはなく暖かい。ゴツゴツしているけど、変なタコができているけど、長くて繊細な指が好きだった。

「好きだったよ、望」

 額に、頬に、マスク越しの唇にそれぞれキスをして、離れようとしたときだ。ぐいと手を引かれ、バランスを崩して先生の上に乗ってしまい、さらに顔をしたたかにシーツにぶつけてしまう。
 うぅ、痛い。痛いです、湯川先生。

「……そば、に」

 寝ぼけた先生が無意識のうちに手を引いたのだろう。体の上に乗られたというのに、先生が目を覚ました様子はない。手はがっちりと握られており、解けそうもない。眠っているのに、なんて力。
 ……まぁ、不可抗力、だよね。
 いい、よね、最後くらい。

 いそいそと掛け布団の中に潜り込み、先生の隣に寝転ぶ。熱のある先生は暖かい。暖かいのは、好き。
 ぎゅうと抱きついて、先生の熱を堪能する。香水の匂いはもうしない。そう、消えてしまえばいい。他の女の痕跡なんて、必要ない。

「望、好きだよ……大好き」

 ……あ、ダメだ。眠くなってきた。昨夜遅くまでケントくんの相手をしていたから、かなり疲れていたんだった。

「……あいしてる……」

 湯川先生はまだセフレだけど、聞こえていないなら、言ってもいいよね。翔吾くんには黙っていよう。
 これが最後だから。
 少しくらい、触れ合っても、いいよね。
 最後に、するから。もう少しだけ、このままでいさせて……。
 好きな人の隣で、眠らせて……。

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