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サキュバスちゃんの純情《長編》
第2章 週末の終末
今日は朝から雨。今年の梅雨は雨が少なく、久しぶりに肌寒い気温となった。
宮野さんとはいつも喫茶店で待ち合わせている。
使い古されたテーブルや椅子がコーヒーと同じ色をしている、とてもシックでノスタルジックな気分になる――まぁ、古い喫茶店だ。七十年代くらいに作られたのではないかと思える喫茶店。マスターはしわくちゃおじいちゃん、ウエイトレスもおばちゃんだ。客もまばら。最近流行りのカフェ、ではない。
宮野さんはたいていブレンドを飲みながら、窓際の席でビジネス啓発ものの文庫本を読んでいる。ハードカバーのものはほとんど読んでいない。持ち運びに適さないからだろう。小説ではないあたりが、銀行員の宮野さんらしい。
「お待たせ」
宮野さんの対面に座り、おばちゃんにブレンドを注文する。栞を挟んで、宮野さんが本をしまう。
あれ、珍しい。いつもは私がブレンドを飲み終えるまで読書をしているのに。
ただそれだけで、彼に何かあったのだとわかるくらいには、付き合いが長い。
「どうか、した?」
「うん。結婚が決まった」
セックスフレンドからの結婚報告に、どういう顔をするのが正解か、なんてあるのだろうか。
宮野さんはジィッと私を見つめてくる。私の反応を気にしている、ように見える。試すような視線に、私はどう応えようと考える間もなく、笑みを浮かべた。
「それは、おめでとう。いつ結婚?」
「……結納は再来月、入籍と式は半年後」
期待した反応とは違ったらしい。宮野さんの表情と声が曇る。
なるほど、少しは妬いて欲しかったのか。執着心を見せて欲しかったのか。
ほんと、男ってかわいい。