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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白

「その代わり、就職活動しないといけなくなったけど」
「病院、辞めるの?」
「ま、病院長の娘との縁談を断るってことは、そういうことだよ。病院にはいられないからね」

 先生は、お父様を超えたいんじゃなかったの? 縁談さえうまくいけば、地位も名誉も、手に入れることができたはずなのに。

「朝、来ていた女の人が、病院長の娘さん?」
「そう。あぁ、すれ違ったんだね。参ったよ、こんな状態なのに押しかけられちゃって。もちろん、きちんとお断りして、帰ってもらったよ」
「なん、で?」

 ぐ、と体重がかけられ、その場に倒れ込む。マットの上で押し倒され、湯川先生だけを視界に映す。

「なんで、って……俺が結婚したいのは、あかりだけだからね」
「……ほんと?」
「嘘ついてどうするの。セフレだとわかっているけど、願うことは自由でしょ。俺は諦めていないから。十年たっても諦めないから」

 諦めない、って聞こえた。それは聞き間違いではない? 本当に?
 私は諦めようとしたのに、先生は。

「フラれる、と、思っ」
「あかりはそう思っていたみたいだけどね」
「……あ!」
「手紙だけ置いてサヨナラは、傷つくなぁ、俺」

 帰る前に、テーブルの上に短い書き置きを残しておいたのだ。面と向かってさようならを言えないくらい、落ち込んでいたから。

「ごめ、なさ……卑怯、だった」
「いいよ。不安にさせた俺も悪い。水森のせいでもあるけど。ごめん、あかり」

 思わず、体を起こして湯川先生を抱きしめる。熱い体を抱きしめる。
 やっと、向き合えた……。
 キスをして、お互いの体温を感じ合って、理性のタガが外れそうになるのを何とか押し留めている。

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