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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏

 心臓に悪いことは続くもので、湯川先生の休みが取れ、翔吾くんの予定も空いていたのは、湯川先生から求婚された翌週の土曜日だった。

 八月の最終土曜日ということもあり、家族連れの姿が多く見られる中、湯川先生に指定されたホテルへ向かう。時刻は十一時ちょっと過ぎ。ランチだ。
 ホテルの中にある日本料理のお店へ行き、湯川先生の名前を告げて案内されるままに個室へたどり着くと、待っていたのは翔吾くんだった。

「久しぶり、あかり」
「久しぶり。翔吾くん、また焼けたねぇ」

 席は三席。四人がけテーブルを二対一で使う形でお箸がセットされている。翔吾くんは一のほうに座っている。
 日焼けした翔吾くんの正面に座る。少し緊張しているのか、顔は強張ったまま。かしこまっているように見えるのは、スーツのせいでもあるだろうか。
 結局、翔吾くんの合宿後にすぐ会うことはできなくて、今、久しぶりに顔を合わせたところだ。

「翔吾くん、スーツ似合うね」
「ありがと」
「緊張してる?」
「まぁ、こういう場は初めてだし、ね」

 私は、掘りごたつ式の個室は何だか落ち着くんだけどなぁ。ホテルの中なのに料亭みたい。昔の職場だった料亭に雰囲気が似ているからなのかもしれない。

「手、繋ぐ?」
「う……そこまで緊張してないし」
「そう?」
「嘘。吐きそうなくらい緊張してる」

 くしゃりと笑った顔がかわいい。ようやくいつもの翔吾くんに戻ったみたいだ。
 黒いテーブルの上に手のひらを上に向けて置くと、翔吾くんが遠慮がちに手を重ねてくる。手汗びっしょりの、熱い手のひら。だいぶ緊張しているみたい。きゅっと握ってあげる。

「そんなに緊張しなくてもいいのに。いい人だよ、湯川先生」
「あかりはどうせ俺のことも『いい人』だって言ったんでしょ?」
「……二人ともいい人で間違いはないもん」

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