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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏

「今日は残業かなぁ……」
腕時計を見ると、あと少しで定時だ。派遣社員としての仕事は終わりだけど、「急ぎで!」と言われているから、なるべく今日中に探してあげたい。そしたら、明日にはデータに起こせるし。
さて、次は二〇〇〇年の段だな、とキャビネットを開ける。青いファイルをごっそりと抜き出して、テーブルの上に置き、パラパラとめくる。
もちろん、荒木さんに「お断り」はできていない。逃げ回る前に断らなきゃいけないとは思う。
どうお断りをするべきか。
直球で断っても無理だったのだから、変化球を投げても無理なような気がする。
そもそも、荒木さんは私に何を求めているのか。
彼は本当に私のことが好きなのだろうか。
そんなことさえ疑ってしまう。
荒木さんのことがわからない。
わからないから、どう対処すればいいのかわからない。
けれど、彼の本音を聞いたら、その瞬間から、逃れられなくなる気がしている。彼の腕の中の呪縛から。
だから、荒木さんの本音を聞く前に、断るべきなのだ。私は。
「月野さん?」
ノックの音と私の名前を呼ぶ声に、顔を上げる。ドアから顔を覗かせたのは、慌てた様子の荒木さんだ。

