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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏

「ごめん、遅くなって! 続きは俺がやるから、月野さんは帰っていいよ」
「え、でも、急ぎなんですよね?」
「急ぐけど、月野さんに残業させられないよ。俺なら徹夜に慣れているから大丈夫!」
……徹夜覚悟で資料を探す気だったんですね。それを聞いたら、探すしかないじゃないですか。
湯川先生と翔吾くんからは「バカ!」と罵られそうなシチュエーションではあるけれど、困っている人を放ってはおけない。我ながら、本当に甘い。
「……一人より二人のほうが効率がいいですよ」
「月野さんはお人好しだね。そういうところはすごく好きだよ」
さらりと「好き」というフレーズを挟んでくるあたり、諦めてはいないのだとわかるけれど、荒木さんは仕事に恋愛感情を持ち込むことはないだろう。そんな人ではない、と思う。
私が変な顔のまま固まったのを見て、荒木さんは苦笑した。
「二〇〇〇年? まだ見てないのはどっちの山?」
「こちらです」
「よし、やるか」
ジャケットを脱いで、ネクタイを緩め、腕まくりをして――荒木さんは真剣な表情をしてファイルを手に取った。
終電までには帰れますように――私の、悪魔の願いは、一体誰が聞き届けてくれるのだろう。神様でも仏様でもないだろうな。魔王様? そんなの、いるの?
そんなバカなことを考えながら、ファイルに目を落とすのだ。

