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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏

 夕飯は荒木さんが買ってきてくれたコンビニのおにぎり。パパッと食べて、資料を探す。時間がもったいないのだ。

「月野さんは終電に間に合うように帰ってね」
「……わかりました」

 そこは、素直に応じておく。無責任に「見つかるまで」なんて言って、荒木さんと一夜を共に過ごす選択肢はない。終電に乗れなかったら、タクシーで帰るしかない。懐に大打撃だ。

「……月野さんは」
「はい」
「資料室に俺と二人きりで大丈夫なの? 資料探し自体が俺の嘘だとは思わなかったの?」
「荒木さんはそういうこと、しませんから」

 ファイルから視線を上げずにそう応える。荒木さんが苦笑した気配がする。

「そっか……信頼されているんだな、俺」
「していますよ。仕事に関しては」

 何年も一緒に働いているわけではないのだけれど、仕事に関しては妥協しない、厳しい人だと知っている。信頼はしているのだ。
 顔から好きになったけれど、そういうところも好きだ。……好き、だった。

「仕事に関しては、か」

 私生活に関しては、何とも言えない。踏み込む発言もできない。私は、荒木さんの気持ちに応えられないのだ。

「荒木さん、これは違いますか?」

 ファイルを手渡して確認してもらうけれど、荒木さんは力なく首を左右に振った。その表情は暗い。
 そりゃ、疲れているだろう。暑い日差しの中、外回りをした後にこんなことをしているのだから。

「休憩しますか? スターカフェでコーヒー買ってきましょうか?」
「いや、大丈夫。月野さんはあと一時間で上がって」
「わかりました。じゃあ、あと一時間だけ」
「うん、よろしく」

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