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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏

 膨大なファイルの数は、その会社の歴史だ。
 データ化される前の資料は、今となっては古くて使えないこともあるのだけれど、緩やかなスピードで進化するものもあるらしく、今回必要になった資料もそういう類のものだ。と、聞いた。

 一九九六年のファイルとにらめっこをしながら、二十年前かぁ、と思う。
 二十年前、私は何をしていただろうか。名前は何だったかな。

 あの頃と比べると、今私の身に起きているのは、急激な変化だと思う。恋人なんていらないと頑なだったのに、情に絆されて二人も恋人を作ってしまった。
 急激な変化、だ。
 頭がパンクしそうなくらい。

「九十五年、行きますね」
「うん、よろしく」

 一九九六年のファイルを戻し、一九九五年のファイルをキャビネットから取り出す。
 色褪せた紙に、手書きの文字。パソコンが普及する前の、懐かしい感じ。たまに読めないくらいに下手くそな字を書く人がいて驚いたけれど、そういうものも全部歴史なのだ。

「……あれ、これ、専務の作った資料だ」

 部長の作った資料もあったけれど、上役の現役時代の資料を見つけるのは初めてだった。
 専務、営業だったんだ……って、あれ?

「荒木さん、これ!」
「んー? 見つかった?」
「はい、たぶん、これかと!」

 ファイルを手渡して、確認してもらう。荒木さんはうんうんと頷いて、笑う。

「ありがとう。間違いなく、これだよ。お疲れ様、月野さん」
「やった! 徹夜しなくてすみますね!」
「……そうだね。見つかっちゃったかぁ」

 他のファイルをキャビネットにしまいながら、荒木さんの不穏なセリフには気づかないふりをする。気づいては、ダメだ。

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