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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏

「なんで、あかりさんが欲しいのか、俺にもわからない。写真を初めて見たときから、なのか、あかりさんと初めて会ったときから、なのか……翔吾と一緒にいるところを見たから、なのか」
「あらき、さ」
「説明できないよ、こんな気持ち」
私なら、説明できる。ただ一言で、荒木さんの疑問に答えを出してあげることができる。
「ただ、あかりさんが欲しい」
比較しちゃいけないのはわかっている。でも、比べなきゃいけない。
湯川先生と翔吾くんは、サキュバスという本質よりも私の心を欲しがってくれた。私がいい、とちゃんと伝えてくれた。
荒木さんは、きっと甘い匂いに騙されているだけ。説明できない感情に流されているだけ。一時的な感情に溺れて、自分を見失っているだけ。
だから――。
「ごめん、なさい。私は荒木さんとお付き合いすることができません」
迫られて体が歓喜しても。心が弾んでも。私は、その想いを受け入れてはいけない。
私は、サキュバスの本能より、湯川先生と翔吾くんの想いを大切にしたい。
「ごめんなさい」
涙で視界が歪むけれど、荒木さんをちゃんと見て、伝えることができた、と思う。
ファンデがはげて、きっと酷い顔をしているに違いない。マスカラが落ちていないことを祈るだけだ。
「……本当に、俺じゃダメ?」
「はい」
「そんなに翔吾のことが好き?」
「はい」
「じゃあ、最後にキスする?」
「は……しません」
荒木さんは手首を離しながら、笑う。
「残念。引っかからなかったかぁ」
「引っかかりません」

