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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏

「その人がどれだけ村上叡心に似ていたとしても、生まれ変わりでもあるまいし、叡心とは違う、ただの他人ですよ」
「それは、わかっていますけど……って、生まれ変わりってないんですか?」
「さあ。それは知りませんが」
「じゃあ、叡心先生の生まれ変わりかもしれないじゃないですか」
論点がずれた、ぐだぐだな酔っ払いの会話だ。建設的な会話ではない。
別に構わない。問題を解決できるとは思っていない。私は水森さんに突っかかりたいだけなのだ。
「顔が似ているだけで生まれ変わりだと言うなら、世の中生まれ変わりばかりですよ」
「水森さんは水森貴一の生まれ変わりっぽいですけどね、嫌味な性格とかそっくり」
「性格が似ているだけで生まれ変わりだと言うなら、もっと生まれ変わりばかりになりますね」
表情を変えずに手酌で冷酒をちびちび飲む水森さんが憎らしい。
一応、水森貴一の貴録を読んだことを伝えるためと、湯川先生の風邪を知らせてくれた御礼を言うためと、千恵子さんへの手紙を託すためにこうして会っているけれど、正直、会いたくはなかった。見ているだけで水森貴一を思い出して腹が立つ。
「湯川先生は、病院内で迫害されていませんか?」
「迫害って……とにかく邪険には、されていませんよ。心配なさらずとも、湯川は毎日嬉しそうですから」
それは湯川先生から毎日毎晩「愛してる」を言うように強制されているためだろうか。そのせいで頭の中にお花畑が咲いているとしたら、かなり問題だけど。
「……浮かれていますか?」
「まぁ、かなり」
「就職、大丈夫ですかねぇ?」
「大丈夫でしょう。もういくつかの病院から声をかけてもらっているようですし」
へぇ。それはちょっと驚きだ。学会なんかに出ていると、いろんなパイプができるのだろう。医者は横の繋がりが大事、なのかもしれない。
それなら、安心だ。

