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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏

「湯川に関しては心配しなくても大丈夫ですよ。それより」
「それより?」
「話さないのですか?」
「何を?」
「あなたの正体を」
サキュバスであることを。
水森さんの言葉に、とっさに返事ができない。
いつかは話さないといけないことだとは思っている。「いつか」が問題。結婚する前か、結婚した後、一年後、十年後……いつ、にしよう。
翔吾くんは薄々気づいている、気がする。「秘密にしていることをいつか話してほしい」と言われたから。
湯川先生はどうだろう。気づいていて、私から切り出すのを待っている、のだろうか。
「何年かなら騙せるのでは、と水森さんが言ったじゃないですか」
「何年か後にどうするんですか? 何も言わずに失踪するんですか?」
「……」
「それだけは、やめてあげてください。湯川の友人として、お願いします」
失踪して、名前を変えて、生きていく。それは、今までのやり方。
わかっている。それが、幸せから逃げ、幸せを手放すことであるということも。愛してくれる二人に絶望を与えることであるということも。
私に、できるだろうか。そんな残酷なことが。

