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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏

 サイドに置いてあった眼鏡をかけて、水森さんはまたあくびをする。ホテルの寝間着を着ている水森さんの姿は、新鮮だ。めちゃくちゃダサい。

「終電はありませんが、タクシーで帰るならお金をお渡しいたしますよ」
「いえ、そんな、お気遣いなく! どら猫亭の分もお支払いしないといけませんし!」
「あぁ、別にそれは構いませんが」

 水森さんが冷蔵庫からペットボトルの水を出してきて私に差し出してくれる。

「渇いているなら、どうぞ」
「あ、ありがとう、ございます」

 水を少し飲んで、ベッドに座る。
 水森さんとホテルにいるなんて、不思議だ。ホテルにいるのに相手にムラムラしないなんて、本当に不思議だ。
 相手が相手。食欲は減退中だ。ものすごい勢いで。

「あなたを送っていくにも住所はわかりませんし、うちに連れて行くわけにもいきませんし、さすがにラブホテルに入るには湯川に申し訳ないですし、その湯川は今新潟にいますから、呼び出すこともできなくて。結局、空いていたビジネスホテルに適当に入りましたよ」
「……ありがとうございます」
「シャワールームは狭いですが、入るならどうぞ。僕は先に使わせてもらいましたけど」

 水森さんの淡々とした口調と現状報告に、何だかホッとする。彼はいつも通り、だ。
 タクシーで帰ってもいいのだけれど、ここで寝たとしても、水森さんとは何の過ちもないだろう。そんな気がする。相手が荒木さんだったら、絶対に絶対にマズイことになるけど。信用の差と言うよりも、性的興味の差なのかもしれない。

「じゃあ、シャワー、使わせてもらいます」

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