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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏

 狭いユニットバスで汗を流していても、翔吾くんのように水森さんは入って来ない。当たり前か。だから、安心して髪を乾かし、歯を磨く。
 最近はもう下着やお泊りセットをカバンに入れておくのが普通になっているので、コンビニに走ることもない。
 ホテルの寝間着をありがたく使わせてもらうことにする。さすがにブラウスとスカートで眠りたくはない。ダサいけど仕方ない。
 バスルームから出ると、水森さんは寝て――はいなかった。眼鏡を外したまま、枕にもたれてスマートフォンを操作していた。

「寝ていなかったんですか?」
「あぁ、タクシーで帰るかどうか聞いていなかったので」
「……泊まります。明日も仕事ですけど」
「どうぞご自由に」

 ブラウスとスカートをハンガーにかけ、水を少し飲む。酔いはだいぶ冷めている。
 ベッドに入ろうとして、水森さんの視線に気づく。水森さんが、私を見つめている、のだ。

「……何か?」
「あなたは、僕を男だと意識していないでしょう?」
「男の人だとは思っていますが、精液が欲しいとはあまり思えません」

 水森さんは男。でも、精液が欲しいとは思えない。セックスをしたいと思えない。なぜだかわからないけれど、そういう対象ではない。
 素直な感想と、水森さんに対しての意識だ。

「まぁ、つまりは性的対象ではない、と」
「そう、ですね。水森貴一の子孫だとかではなくて……好みの問題なのかもしれません」
「なるほど、好みの問題ですか」

 水森さんからは以前、「興味がある」と言われたけれど、それはあくまでも研究対象としてだろう。私が水森さんを性的対象として見られないように、水森さんも私をそういう対象としては見ていないように思う。

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