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サキュバスちゃんの純情《長編》
第12章 性欲か生欲か
縁側に横たわっている。目の前に広がる、草木も何もない砂地の庭に見覚えがある。静かな空間に、かすかにシャカ、ペタ、という音が聞こえる。けれど、懐かしいはずの、油の臭いはしない。
ここがどこなのか、背後にいるのが誰なのか――すべてを理解した瞬間から、涙が止まらない。
動けないのに、見ることができないのに、背後の様子は手に取るようにわかる。
どこにイーゼルがあって、どこに彼が座っているのか、道具の位置すらわかるのだ。
「お前は馬鹿だなァ」
呆れたような声が、愛しい。
「生きて幸せになれ、と言っただろうが」
慈しむような声が、懐かしい。
「なァ、ミチ。幸せになれそうか?」
それはわからないけれど、幸せになりたいと思えるようにはなったよ、私。
「それは、お前にしては進歩だなァ」
ねぇ、笑っているんでしょう? その笑顔を、見せてよ。私が大好きだった、困ったような笑顔を。
「ミチ」
振り向くことができない。金縛りにあっているかのように、体が動かせない。声も出せない。
見知った小さな庭が涙で滲むのを、拭うこともできずに眺めているしかできない。
「……すまなかった」
涙が溢れて、止まらない。
今すぐ名前を叫んで、その体を抱きしめたいのに。
私を遺して死んでしまったことを責めたいのに。
言いたいこと、たくさんたくさん、あるのに。