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サキュバスちゃんの純情《長編》
第12章 性欲か生欲か

「ミチ」

 優しい声。
 私が大好きだった、私の名を呼ぶ穏やかな声。

「いつかまた、お前の絵を描いてやるから」

 こんなに汚れた私でも描いてくれる?

「お前は綺麗だ。お前の心も体も汚しちまったのは……俺だよ。お前のせいじゃねえ」

 すまなかった、と再度声が響いて。
 そっと、左手に暖かいものが触れる。

「幸せになれ、ミチ」

 ……あなたに、そうしてもらいたかった。最期まであなたと幸せでありたかった。
 馬鹿はあなたよ、本当に。大馬鹿者。

「そう、だな。俺はすべてから逃げ出した、馬鹿な男だ。次は、逃げ出さない男に、幸せにしてもらえ」

 左手に触れているものが、彼の手だとわかる。ぎゅうと握って、離したくないと強く願う。
 願うのに、握ることができない。

「ミチ」

 ……はい。

「愛していたよ」

 視界が不明瞭にぼやけていく。
 私も愛していた。
 あなただけだった。
 離したくない。消えてしまいたくない。
 もっと、もっと、あなたを感じたい。感じていたいのに。

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