この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
サキュバスちゃんの純情《長編》
第12章 性欲か生欲か
「ミチ」
優しい声。
私が大好きだった、私の名を呼ぶ穏やかな声。
「いつかまた、お前の絵を描いてやるから」
こんなに汚れた私でも描いてくれる?
「お前は綺麗だ。お前の心も体も汚しちまったのは……俺だよ。お前のせいじゃねえ」
すまなかった、と再度声が響いて。
そっと、左手に暖かいものが触れる。
「幸せになれ、ミチ」
……あなたに、そうしてもらいたかった。最期まであなたと幸せでありたかった。
馬鹿はあなたよ、本当に。大馬鹿者。
「そう、だな。俺はすべてから逃げ出した、馬鹿な男だ。次は、逃げ出さない男に、幸せにしてもらえ」
左手に触れているものが、彼の手だとわかる。ぎゅうと握って、離したくないと強く願う。
願うのに、握ることができない。
「ミチ」
……はい。
「愛していたよ」
視界が不明瞭にぼやけていく。
私も愛していた。
あなただけだった。
離したくない。消えてしまいたくない。
もっと、もっと、あなたを感じたい。感じていたいのに。