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サキュバスちゃんの純情《長編》
第1章 情事と事情

土曜日の夜はたいてい、湯川先生に会う。先生はホテルを予約しておいてくれるから、指定されたホテルへ向かうだけだ。
日曜日の昼までゆっくりして、昼食をご馳走になることもあれば、朝食だけ食べて解散することもある。
先生が出張で会えなければ、他の人に会う。
大学生の翔吾くんは平日の夜、会社員の宮野さんや相馬さんは土曜日か日曜日。
食事は最低でも週に一度、誰かとセックスできればよい。誰とも予定が合わないときは、仕方がないのでナンパをすることが多い。
来週、誰かと予定を合わせなければ。
湯川先生との相性はバッチリだけど、出張で会えないこともあるのが難点。大きな病院の先生は大変だ。
「あかり」
「あ、一口食べたかった?」
「いや、大丈夫」
ラウンジでベリータルトケーキを食べながら、眺めの良い外を見る。快晴。今日は富士山も見える。その他目に入るのは同じような高層の建物。素敵な眺めだ。
このあたりが一面焼け野原だった頃を知っているけれど、ここまでビルがにょきにょき建つとは思わなかった。時代は変わる。
先生が頼んだコーヒーが置かれる。今日もコーヒーだけ。
「それ、今日も食べてるの?」
「好きなの。美味しいよ」
リンゴのシブーストも、クレームブリュレも好き。季節のタルトも。
私の主食は精液だけど、甘いものは別。エネルギーにはならないから、心置きなく食べることができる。
このホテルの上階ラウンジは静かで、タダで美味しいケーキが食べられるから気に入っている。
「今日は暇?」
「……先生は暇なんだね?」
少し温くなったダージリンティーをコクリと飲んで、隣に座る先生を見つめる。襟と袖に藍色のラインが入ったシャツ、私が選んだものだ。
「今日は暇。夜まで一緒にいる?」
「ううん、帰る。ご馳走になったし」
「つれないなぁ」
夜まで一緒にいるメリットがない。すでに満腹だ。理由もない。私は先生が好きだけど、それは食事相手としての好意でしかない。
私と湯川先生との間に、愛だの恋だのといった艶のある関係は必要ない。私はそう思っている。

