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サキュバスちゃんの純情《長編》
第2章 週末の終末

「月野さんはどちらのご出身? ご両親は息災でいらっしゃる?」
落ち着いた色合いの家具が並ぶ応接室。水森さんのお祖母様と向かい合って座る。テーブルには湯気の出たコーヒーが置かれている。
「残念ながら、両親は事故で亡くなりまして……出身地は聞いたことがありません」
「親戚の方が広島にいらっしゃるとか、そういう話は?」
「それも、聞いたことがありません。親戚はいないと聞かされておりましたので」
「あら……そう……」
見るからにがっくりと肩を落としたお祖母様に対して、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
勧められたコーヒーを一口飲んで、ホッとするけれど、味わう余裕はない。目の前に置かれたカステラも、きっと美味しいのに、味がしない。
「あなたにね、そっくりな人が描かれた絵を、持っているの。村上叡心という画家の描いた裸婦像なんだけれど。本当に、そっくりで」
だから、私の血縁関係者にそういう人がいないか、知りたかったのだろう。
残念ながら、そういう人はいない。
裸婦のモデルは私だから。
「今度ね、小さな画廊なのだけど、村上叡心の展示会を行なうの。うちが持っている絵はそちらに飾られるから、もしよければ、来ていただけないかしら?」
二枚のチケットが差し出される。受け取るか迷っていると、お祖母様は優しく微笑んだ。
「湯川くんと一緒にいらっしゃい。あの子、村上叡心の絵が好きだから、康太が誘うよりもあなたから誘ってあげたほうが、きっと喜ぶわ」
血の気が引く音が聞こえた気がした。
湯川先生が、あの絵を知っている?
あの、裸婦像を?
指が震えて止まらない。
なんで、どうして。

