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サキュバスちゃんの純情《長編》
第2章 週末の終末

「……先輩は、彼氏が、付き合う前の昔の自分を知っていたらどうします?」
「あら、月野さん、ヤンチャしてたの?」
「いやいや、ヤンチャとか! しかも、私の話ではないんですけど! 友達が、その、昔写真家と付き合っていて、その人のモデルをしていたんですけど……彼氏が実は出会う前からその写真を気に入っていて、出会ってからもそれを内緒にしている、その彼氏の心境ってどんなものなのかな、と悩んでいて」
しどろもどろになりながら、説明する。もちろん、そんな友達はいない。
叡心先生が描いた私の絵は、ほとんどが裸のものだった。確か……セックスの直後の絵もあったはずだ。
いやらしさより芸術性のほうが高いと当時は考えていたけれど、いや、今でもそう思っているけれど、思い出してみると恥ずかしい。まどろみの中で気持ち良さの余韻に浸っている――事後の絵を湯川先生が見たのかはわからない。見ていないことを祈りたい。
「自分の好きな写真の中の人が目の前に現れたら、運命を感じるかもねぇ」
「運命……」
「写真では触れられないけど、現実なら実際に触れられる。だったら、何が何でも手に入れて、大事にしたくなるんじゃない?」
「そういう、ものですかねぇ」
大事にしてくれているのはわかる。先生が私を想ってくれていることもわかっている。
でも、それじゃダメなの。ただのセックスフレンドじゃなきゃ、ダメ。
私はもう誰かの「特別」になりたくない。
「私は男でもないし、彼氏でもないけど、たぶん、友達の彼氏、結婚を考えているんじゃないかしら」
「はいっ!?」
「だって、せっかく手に入れた運命の女を、男が簡単に手放すわけないじゃない。本心を隠したまま、逃げられないようにじわじわ追いつめて、判を押させると思うわよ」
判、て。婚姻届、の?
湯川先生はそんなことを考えているのだろうか。いや、最初から結婚を前提として付き合って欲しいと言っていた人だ。未来への希望を捨てたとは思わないほうがいいだろう。
それは、マズい。

