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サキュバスちゃんの純情《長編》
第3章 迷惑な思惑
私の後ろにでも知り合いがいるのだろう、彼は小さく手を振る。私は微動だにせずその様子を見つめる。後ろを振り向くと自意識過剰すぎる人だと思われるかもしれないから。
美少年は友人たちに何事か話しかけ、手を振って別れの挨拶をして、知り合いと話すためか、再度店内へと戻ってきた。
そして、私の後ろを通り――隣に座った。
「お姉さん、何で無視するの?」
「へっ?」
「僕、手を振ったのに、無視したでしょ?」
「え、あれ、私に振っていたの?」
頷く少年は、近くで見るとますます美しい。長い睫毛に、発色の良い唇。絹のようにシミも凹凸もない白い肌。モデルをやっていると言われても不思議ではない。
少年は手に持っていたメロンソーダを飲む。それにしても、彼とは初対面のはずだ。初対面だ。なぜ、私に手を振ったのか、理解できない。
「お姉さん、何飲んでるの?」
「紅茶」
「こんなに暑いのに紅茶?」
笑う少年は、暑いのかかなり制服を着崩している。ネクタイは緩いし、ボタンも上から二つほど外している。若さ溢れる鎖骨が羨ましい。
「カフェでメロンソーダ頼むのも変だよ」
「アイスクリーム入りのメロンソーダは自販機で売っていないからね」
「部活の帰り?」
「うん。お姉さんは仕事帰り?」
「そうだよ」
人懐っこい笑顔を浮かべながら、美少年は話しかけてくる。
これは……何? ナンパ? 中学生か高校生が、私を? まさかね?
「あ、僕、日下部ケント。ケントは漢字だと賢い人で賢人ね。お姉さんは?」
「月野あかり、だよ」
「あかりちゃん、ね」
ちゃん!? あかりちゃん!?
私の動揺を知ってか知らずか、ケントくんはニコニコしたまま私のスマートフォンを取って、操作を始めた。