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サキュバスちゃんの純情《長編》
第3章 迷惑な思惑

 荒木さんを誘ったのは来週。今週末は――湯川先生と向き合おう。逃げていたって、何も始まらない。ならば、向き合おう。
 ドキドキしながら送信ボタンを押して、溜め息をつく。佐々木先輩がまた心配してこちらを見つめてきたので、「大丈夫です」と笑う。

「月野さん、これ、行く?」

 佐々木先輩が示したのは、イントラネットの業務掲示板だ。月末に行われる花火大会の観覧会場が確保できたので、正社員・派遣社員・契約社員にかかわらず参加してください、という総務部からの連絡。

「淡白荒木さんは行くみたいだよ」
「……佐々木先輩は行くんですか?」

 荒木さんがいたとしても、先輩がいないとつまらない。日向さんが徹底的に荒木さんをガードするだろうし。でも、先輩が行くなら私も行こうかな。
 けれど、先輩は首を左右に振った。

「私は行かないわ。人混み苦手だし、子どももまだ小さいし」
「へ? 佐々木先輩、お子さんいるんですかっ!?」
「え、知らなかった? 私バツイチ子持ちよ?」

 えええええ! 今日一番のショッキングな話題なんですけど!

「知りませんでしたよ!」
「じゃあ、言うの忘れていたのね」

 佐々木先輩は軽く「ごめんね」と笑って、自分の作業に戻る。
 まぁ、美人で仕事もできて人望もある彼女がなぜ正社員ではなく派遣社員をしているのか、疑問に思ったことはあるのだけれど、小さな子どもがいたら、いざというときに休みやすい雇用形態を選ぶのも当然かもしれない。
 そうか、それで正社員への登用を断っていたのか。そっかぁ。

「先輩、お子さんの写真、見せてくださいね」
「休憩時間にね」

 そのあたりをキッチリさせているのも先輩らしい。けれど、横顔は何となく嬉しそうだ。
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