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剛 to 舞依
第1章 剛の「剛 ing 舞依」 イブ
この目

一月程前になるか
昼間の暑さも和らいだ五時間目
食後で国語では睡魔に勝てない
それが訳の分からない古文ときたら尚更だ

程好いひだまりと
カーテンの隙間からそよぐ風で
心地好いまどろみに浸っていると
「…伊澤くん…伊澤くん…伊澤!」
徐々に大きくなる呼び声から
呼び捨てと同時に
脳天に痛みが走る!
「ってーなぁっ!」
痛みに手を当てて顔を上げると
ボヤける目に黒い角が狙っていた
「『思ひつつ寝ればや人の見えつらむ夢と知りせば覚めざらましを』って…」
節をつけて妙に通る声の主は
出席簿の角の反対側で
細くかっきりとした眉を寄せ
ネコのような目で俺を見下ろしていた
「小野小町が詠んだけど…」
「小野小町…?」
「伊澤くんも良い夢観てた?」
「…はぁ?…」
寝惚けた頭に呪文のような言葉で
呆けた俺を見て
ネコの目は優しく笑い
セミロングの黒髪をかき上げながら
くるりと向きを変えて教壇へ向かった
「…小野小町…おいヒロ」
振り向いて後ろのヒロへ訊ねる
「…小野小町って遣隋使だっけ?」
「バーカ、そりゃ小野妹子だ」
「…そっか…」
「小野小町ったら美人だったらしいぜ」
「ふーん…あの美人は誰だ?」
いつもの国語のババアじゃねーぞ?
「美人?プッ剛の好みか?」
「っるせー」
「内海っつー古文専門教師だってよ」
「内海…」
「図書室担当だと、俺達にゃ縁遠いな」
「ふーん…小野妹子も美人だったのかなぁ?」
「アホウ、妹子はおっさんだ」
「はぁ?男の名前じゃなかろーが!」
「知るか!」

その日の放課後
ガラにもなく図書室で古典文学書を探し
小野小町の歌を調べてみた
本の在りかも分からなかったので
居た奴に聞いて探してもらったのだ
「…あった…歌…何だっけ…『思いつつ…』?」
「『思ひつつ寝ればや人の見えつらむ夢と知りせば覚めざらましを』じゃない?」
有名な歌なのか?
本を探してくれた小さい女子が教えてくれた
「そうそう、そんなのだった」
ページをめくると歌が見つかり
日本語訳も載っていた
…元々日本語だけど俺には分からない…
『あの人のことを思いながら眠りについたから夢にでてきたのだろうか。夢と知っていたなら目を覚まさなかっただろうものを。』
解説を読むと恋の歌らしい

さっきの俺とは少し違うが
夢うつつに美女が出てきたのには違いない!
古文が少し好きになった…
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