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甘蜜トラップ
第2章 快楽と堕落
はあっ、とお互いの熱のこもった吐息が被さり、身体も声のように重なった。瑞樹が私を覆うようにして窓に手をつく。
ナカに入ったまま、どくどくと彼の吐き出したものをを感じる。脈打つ感覚も、張り付く感覚も、終わってしまうと妙に虚しくて。
二人して、言葉がない。
いつものことだけど、寂しくて。
窓越しに柳瀬の背中を見つめたーー……そう、まさに偶然。彼が振り返ってこちらを見たのは、単なる偶然に過ぎなかった。
視線が交わったように思えたのは私の勘違い、だと思う。
瑞樹が離れて、ゴムの処理をする。
私はそれをなんとなく感じながら窓の向こうに視線をやった。
「なに見てんの?」
「え?」
「あー、前田?」
「え、ああ……うん」
柳瀬、とは言えなかった。
なんでだろう。わざわざ言うことでもないけど。
「前田って千歳の前の席の女じゃん」
「そう」
「なんかあんの? あいつ、山中の件でまあまあ噂されてっけど」
「そうなんじゃない、噂通り」
「へー、まじか誰かに言ってやろっかな」
「やめてよ、そういうの」
「前田のこと庇うんだ? それとも山中?」
「別に、あんたには関係ない」
「つれないなあ、さっきまでこんなに愛し合った仲なのにー」
身体で愛し合ったって。
……私が誘ったのに、なんでこんなに満たされないの。
「俺のこと好きになんない?」
「ごめんそれは無理」
乱れた制服を直し、軽くしみを作ってしまったスカートは脱いでバッグから私服を取り出して着替えた。
「本当ドストレートで傷つくわー。でも俺千歳のそういうとこ可愛いなあって思ってるよ。ま、俺らはさ、保険じゃん? お互いの。セックスして一時でも楽になりたい依存症っていうやつじゃん。もし茨の道に行くっていうなら俺はお前を捨てるしお前も俺を捨てるっしょ」
恋愛という厳しい道を行くなら。
いまの私たちの逃げ場はここしかなくて、心にぽっかりと空いた穴を埋められる術がセックスしかないから。
「いいじゃん? 俺ら、そういうんだし。でも俺らが同時に苦痛を選ぶんならそれもアリかなって思っただけ。ま、ねえよな」
へへ、と笑う。
瑞樹のことは好きだ。
ただそういうんじゃないよっていうだけ。
よく分かってる、お互いことは。
暗黙の了解みたいに。
「ありがと」