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甘蜜トラップ
第4章 惰性と欲求
胸の膨らみを撫でるように揉む右手と、私の髪の毛を掻き分けるように頭に触れる左手。まるで包み込まれているような錯覚を起こさせた。
時間が経たない。
キスしている時間がどれだけ長いのか分からない。いつもなら感覚でどれくらいって分かるのに、なにも考えたくなくなる。あったかくて。
はあ、と小さな吐息をこぼして離れた唇から覗く赤い舌。私と柳瀬の間を結ぶように厭らしい糸が伝っていた。
「今日誰とやったの?」
「っ、」
「結局教えてくれなかったでしょ、橘」
「……誰、とも」
「じゃあこの汚い痕はなに」
は、と消えかけていたあいつの顔が戻ってきた。あちこち痛かったせいでキスマークをつけられていたことに気が付かなかった?
鎖骨を指差す柳瀬は「下手くそだな」と笑う。
「キスマークで人は死ぬことがある」
「え、」
「脅したらその男はお前から離れるかな」
「っ、んなわけない」
「そ、」
怒りだ。
嫉妬してる?
誰かも分からない相手に。
そんなわけないよね、柳瀬。
柳瀬が私にそんな感情を持っているわけがない。
「じゃあその彼が自ら橘から離れたくなるような課外授業をしないとね」
耳元で囁くように。
熱のこもった息が触れる。
脳に直接響くようだ。
……熱い。