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甘蜜トラップ
第2章 快楽と堕落

「柳瀬、センセー」
瑞樹の真似をすると、「浅木と同じ言い方するんだね」と返された。
「わざと」
「橘は俺が嫌い?」
「生徒にそんな質問して、引くよ普通」
最近は女子生徒から人気が高くて天狗になってるのかもしれないけど、全ての女が外見に惚れるなんて思ってるなら大間違いだ。
「普通じゃないわけ? 橘は」
……。
「柳瀬先生、なんでここに?」
「担任だけで受け持つ教科がないから見回り」
「そんなんで雇われるんだ」
「どういう意味かな」
彼が美術の才能を持っていることは知っている。神様の子として小学生で画家デビューを果たしたその天性の才は誰もが見惚れる絵として表現される。
誰も持っていない新しいテイストの、残酷なまでに綺麗で美しい配色は煌びやかで、私は彼の絵を初めて見たとき、幸せな人なんだろうなって思った。
立場も力も才も違えど、一人の絵描きとして彼が嫌いだった。でもその感性は否定出来ないくらいに完璧なもので、私は認めざるを得なかった。自分の無力さを。
「先生は絵が好き?」
「愚問だね。橘は?」
「嫌い」
「どうして」
自分の好きなものを嫌いと言われて少し傷ついた顔をする。寂しさを感じさせるように。
「先生の絵を見て嫌いになった」
「俺の?」
「そう、嫌味な絵だと思った」
闇の奥底に深く沈み込んで手を伸ばしても上になど到底行けない塵屑のような私が、憧れたところで無意味で見ているだけで虚しくなる。馬鹿にされているみたいに思えた。

