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甘蜜トラップ
第2章 快楽と堕落




「先生は自分の立場分かってる人だよね?」

「?」

「前田さん、気をつけたほうがいいよ。あの子教師キラーだから。で、先生は今後私とこんな風に二人きりを誘うのはやめてね」

「分かってたんだ、橘は」

「前田さんに私が瑞樹とそういうことしてること言われたんでしょ、どうせ」

「前田はお前の心配をしてたよ」

「……嘘つきは嫌い」

「前田のことも嫌いなの?」

「別に」


前田さんと直接どうこうってことはない。ただ、許せないだけ。気に入らないだけ。柳瀬に言ってやるようなことじゃないからわざわざ口にはしないけど、あの子は山中を落とした。海の底へ突き落とすようにーーだから許せない。自分が誘っておいて自分だけ被害者面するから気にくわない。


山中は私が幼い頃からよくしてくれた近所のお兄さんだった。ちょっと変態だと思ったことはあったかもしれないけど、強姦するような人じゃない。嫌がる女の子を無理やり犯すなんてニュースでやってるような悪人じゃなかった。

クラスの人も、他の教師も、世間も、誰もなにも知らないくせに勝手に傷を付ける。容赦なく。だから私は耳を塞ぎたくなる。前田さんが誘ったんだろう、って思う度に。


腹が立って。
本気でもないのに教師を誘って自分だけ逃げるなんて。退学になればよかったのに、って思ってしまう。


「橘」

「なに?」

「いまなに考えてた?」

「……先生って私のこと好きなの?」

「んー? そりゃ勿論、嫌いになる理由はないかな」

「いやそうじゃなくて」

教師ってこんな風に皆と一対一で話すっけ?
記憶の中では他にいない。

「大人をからかっちゃ駄目。次の授業には出なさい、それから部活にも顔出すように」

「ここにいるのは先生のせいでしょ」


間違いなく。
校門に柳瀬がいなければ私は教室に向かっていた。たとえ授業中でも堂々と入っていたはずだ。


「ああ、確かに、ごめんな」

「先生、さっき私が言ったこと冗談じゃないから、気をつけて。もし調子乗ったら私が先生のこと襲うよ?」

「ふはっ、そっか。俺のこと心配する前にとりあえずお前は浅木とのこと考えなよ。こんなところでもうするなよ」

「……」

「分かった?」

「……分かった」


分かんないけど。
口だけ嘘を言うなら簡単なことで。





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