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甘蜜トラップ
第2章 快楽と堕落
初っ端からビビってたわけじゃない。
ただ、いつからかそういう噂が蔓延って消えなくなっただけ。人の噂は然程長持ちしないものだと思っていたけれど、それが極端な話、伝説化でもしたら消えるもんも消えない。つまり学校の七不思議並みに染み付いてるってことで。
彼の悪のイメージも、私の不真面目なイメージも同様。そして前田さんの悪女的イメージも。そういうターゲットがあってこそ成り立つ人間の集団生活って、既に壊れてんだろうけど。
所詮は他人だし。
壊れたって、壊したって、関係ねえよってね。
売店についた頃、ふいに瑞樹が立ち止まる。
「お前は俺が怖くないわけ? まともにつるんでんのお前だけだよ多分」
「私もあんただけだよ多分」
瑞樹がメロンパンを買って、私はその横にあるウィンナーパンを買った。昼飯に甘いパンとか考えられないんだけど、とか思いながら裏階段に向かう。
「なあ千歳今日俺の家来ねえ?」
「えー……」
「なんだよ気乗りしないのかよ」
「そういうわけじゃないけど」
少しだけ柳瀬の言葉が脳裏をよぎったが、すぐに消えて行った。私の頭の中に留まるのはやはり瑞樹の声だけで。
ウィンナーパンを食べ終え、ゆっくりメロンパンを食べている瑞樹の横顔をチラ見して窓の外に視線をやった。
「来いよ、んで俺が寂しいから泊まってけ」
「分かったよ」
そんなこと言われたらしょうがないじゃん。恋愛に至ることがなくても、愛情に似たようなものはあって。そういうなにかに私は弱い。