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甘蜜トラップ
第2章 快楽と堕落
ーー放課後は放っておいてもやって来る。瑞樹の家に帰ると約束しているし早いこと切り上げて帰りたいんだけど、面倒臭いし……柳瀬が教師っぽくないにしても教師だし。部活休みだし。あっても参加してないから意味ないけど。
やっぱ部活辞めるべきかな。
美術準備室の前で、ふう、とひと息吐き出して、そっと扉に手をかけた途端ーー……ガラガラ、と向こうからスライドされて開いた。
「び、っくりさせないで」
「いや、先生、それこっちの台詞」
「……入りな」
「うん?」
ただでさえ私は先生という存在が苦手だ。無条件で、というときっと失礼にあたると思うけど、それでも苦手だ。すぐに怒るし、真剣に話しても無かったことにするし、こっちのことなんて見てもいない。
そのくせ、生徒を呼び出すのは強引で。
先生が扉を閉めると、やけに絵の具くさい部屋にぽつんと取り残された気分になった。埃っぽいし、準備室っていうのはあまり掃除しないものなんだろうか……。
転がっている綺麗そうな椅子に腰掛けて先生を見上げる。
「で? なに、先生」
「前の担任のことを聞きたい。山中先生がどうして捕まったのか、校内では噂話ばかりでどうも信憑性がなくてね」
「……なんで?」
噂話を適当に信じておけば良いじゃない。
面倒臭い。私が事実を知ってるんだから、そこらへんの馬鹿みたいに噂に弄ばれていればいい。
「山中先生は俺の師匠だった」
「師匠?」
「初めて絵を教えてくれたのが山中先生で、俺が絵画教室でバイトをしていたのも山中先生の紹介でだったんだよ」
「へえ……」
なんか、意外。
捕まる前の山中の人間性を知っている人なんてごく僅かで、知っていても見る目を変えてしまうのが現実なのに。
カチ、と音がして目をやると、ジッポで煙草に火をつけようとしていた。
「先生ここ煙草禁止」
「チッ」
「舌打ちしない。女子生徒が悲しむよ、憧れ、らしいから?」
「嫌味な言い方、橘は悲しんでくれないわけか」
「悲しむわけないでしょ、ていうかなんで私の前では気取らないわけ、意味分かんない」