この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
甘蜜トラップ
第2章 快楽と堕落
「橘は俺のことが嫌いそうだからかな」
冷たい瞳のままにっこりと微笑んで、私を見下ろす。なんだろう、吸い込まれそうだ。
思わず目をそらすと、くすりと笑われた。
「嫌い」
「山中先生のことは?」
「なんでそんなこと聞くの」
「よく聞いてたんだよ、本人から。生徒に手出したらおしまいだよなって。好きだったみたいだから、あの人が、橘ことを」
「……っ、」
なんで、なんで山中は私のことを柳瀬に相談してたって? 意味分かんない。だって、手出したらおしまいって、それはーー
「あの人が生徒に手出だしたって言ってたの?」
「ああ、言ってたよ」
証拠残してどうすんの、馬鹿じゃないの。
「やっぱり」
「ん?」
嘘だったのか。
そんな嘘つくような人じゃないって信じていた、というか、信じたかった。あの日化学準備室であったことが本当だったってことになる。目で見たことを認めたくなかった。見たくもなかったのに。
「私じゃない」
「え?」
「私じゃないよ、手出されたのは。馬鹿だね、他人にそんな相談して」
「橘……?」
「前田さんだよ、出されたのは。噂の多くがそうだから逆に信憑性がないかもしれないけど、前田さんとそういうことしてたのは事実。知ってるし。見たから、ただ、山中が女子生徒と噂になってたっていう噂の相手は多分私」
「橘、」
呼ばれて顔をあげると困ったような表情で見つめられた。どうせ、皆一緒でしょ。
ふわり、と。
頭に乗せられた手が乱雑に髪を掻き乱す。
「やめて」
「泣いてんのかと思って」
「泣いてないし触んないで」
嫌だと振り払えない弱さが胸の奥にあった。山中を好きだと思っていた感情が嘘ではないと思い出させる。教師なら誰でもいいわけじゃない。ただ、でもなんとなく、柳瀬は似ている。頭を撫でるその触り方が。きっと柳瀬も山中にそうされたことがあったんじゃないか、と思った。
だから嫌なんだ。
捕まったんだ、ふうん、って。
他人事のように思っていないと。
胸が痛い。