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甘蜜トラップ
第2章 快楽と堕落





「橘は俺のことが嫌いそうだからかな」


冷たい瞳のままにっこりと微笑んで、私を見下ろす。なんだろう、吸い込まれそうだ。

思わず目をそらすと、くすりと笑われた。


「嫌い」

「山中先生のことは?」

「なんでそんなこと聞くの」

「よく聞いてたんだよ、本人から。生徒に手出したらおしまいだよなって。好きだったみたいだから、あの人が、橘ことを」

「……っ、」


なんで、なんで山中は私のことを柳瀬に相談してたって? 意味分かんない。だって、手出したらおしまいって、それはーー


「あの人が生徒に手出だしたって言ってたの?」

「ああ、言ってたよ」

証拠残してどうすんの、馬鹿じゃないの。

「やっぱり」

「ん?」

嘘だったのか。


そんな嘘つくような人じゃないって信じていた、というか、信じたかった。あの日化学準備室であったことが本当だったってことになる。目で見たことを認めたくなかった。見たくもなかったのに。


「私じゃない」

「え?」

「私じゃないよ、手出されたのは。馬鹿だね、他人にそんな相談して」

「橘……?」

「前田さんだよ、出されたのは。噂の多くがそうだから逆に信憑性がないかもしれないけど、前田さんとそういうことしてたのは事実。知ってるし。見たから、ただ、山中が女子生徒と噂になってたっていう噂の相手は多分私」

「橘、」


呼ばれて顔をあげると困ったような表情で見つめられた。どうせ、皆一緒でしょ。

ふわり、と。
頭に乗せられた手が乱雑に髪を掻き乱す。


「やめて」

「泣いてんのかと思って」

「泣いてないし触んないで」


嫌だと振り払えない弱さが胸の奥にあった。山中を好きだと思っていた感情が嘘ではないと思い出させる。教師なら誰でもいいわけじゃない。ただ、でもなんとなく、柳瀬は似ている。頭を撫でるその触り方が。きっと柳瀬も山中にそうされたことがあったんじゃないか、と思った。

だから嫌なんだ。

捕まったんだ、ふうん、って。
他人事のように思っていないと。

胸が痛い。





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