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甘蜜トラップ
第2章 快楽と堕落
「山中先生とも付き合ってなかったんだよね?」
「え、うん……?」
なんだろう。
探られているんだろうか。
先生がそんなことを気にする理由もないと思うけど、まあいいや。自分のクラスの生徒が問題児だったら多少の牽制は当たり前だろうし。
「じゃあ、もう帰るから」
「気を付けて」
準備室を出る途中、カチ、とジッポの蓋を閉める音がした。本当に先生らしくない人だと思う。生徒が出たら煙草を吸うなんて。
一見優しそうな見た目や口調をしてるけど、なんか……こう、怪しい。
考えているのも面倒になって瑞樹の家まで走って帰りたい気分だけど、走るとすぐに息が上がるってしんどくなるって分かってるからゆっくり歩いた。
……落ち着かない。
柳瀬は昔から私を知ってるみたいなことを言ってたけど、私は全く見覚えがない。ただ覚えていないだけなのかそもそも顔を見たのが初めてなのかもいまとなっては曖昧だ。
絵はしっかり覚えていて、それに対しての感想や意見なるものも私の中にはしっかりと練り込まれているのに、絵を生み出した人間像というか、所謂イメージが噛み合わないといった風に。
柳瀬を見て、ああそういう絵を描く人だなあ、って納得は出来ない。だからかな、顔を見ても全然分からないのは。いや、そうでなくても過去に顔を見たことがないのなら当然のことなのかな。
妙にひっかかるのが気になったが、もう考えるのはやめた。胸の奥に靄が広がっていくばかりで晴れることはない。
歩いて、歩いて、瑞樹が住むアパートに到着した。インターホンを鳴らすと私の顔を確認した様子もなくドアは勢いよく開いた。
「確認しないと危ないって言ってんでしょ、いっつも」
「いいんだよ俺は男なんだから。つか遅かったじゃねえか、待ちくたびれた」
「ごめんごめん」