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甘蜜トラップ
第2章 快楽と堕落
クマのぬいぐるみはなかった。別に駄々をこねるほどのことでもないけどちょっとだけ不満で、ジェラート店でストロベリーのアイスを奢ってもらった。これで満足。
食べている途中に瑞樹がそわそわしていたから、じっと見つめると「はあ」とため息をつく。
「どうしたの」
「俺トイレ行ってくるわ」
「あ、うん」
なんだ、アイスが食べたいのかと思ったんだけど違ったんだ。トイレなら普通に言ってくれればいいのに。
丸テーブルに肘をついてぼうっとしていると、学校ってどんだけ狭い景色の塊なんだろうって思う。人の流れもありふれたものでなんの変哲もない光景、でもこれだけの知らない人がいると違う気分。誰も私のこと知らない、他の学生だって他校で私のことを知らない。
自意識過剰かもって思うことはあるけど、やっぱ誰もこっちを見ないことって安心感がある。
苺美味しい。
「ーー先生、ちょっと暑くないですか? アイス、食べませんか」
「ああ……そうだね」
山中ーー?
偶然現れた女子生徒とその向こうにいるであろう先生なる存在。言葉だけでなんとなく山中を連想させた。そんなことあり得ないのに、私の中にまだ保管されたままの感情が煙のようにすうっと溢れ出そうとする。
雑音にまみれたこの場所でピンポイントで声を拾おうと、無意識に耳を傾けて。
アイスを注文する後姿、なんだ、あれ……見たことある。しかもつい最近。
「……柳瀬じゃん」