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甘蜜トラップ
第2章 快楽と堕落
ーー文化祭とか、なんとかかんとか。体育祭は入学して間もなく終わったけど、夏休みが済んだらすぐにこれだ。文化祭は定番らしい喫茶店。そんな話が上がっているのは知っていたけど、美術部が絵の制作に取り組むなんて話は一切聞いていなかった。
喫茶店なら勝手に喫茶店やってればいいのになんでそのためにボードを作ったりなんやかんやしなきゃいけないのか、なんて考えてるグータラ人間はこのクラスに私と片手で数えられる程いるかいないかくらいで。
瑞樹のクラスはまた別のことをするようで、それに加えてテストがあるため顔をあわせる頻度が減っていた。
放課後は文化祭準備とか部活動とか騒がしいのは変わらないけど、極力関わりたくないなって思っていたところーー……
「あ、瑞樹」
文化祭準備中、かな。
廊下を歩く後ろ姿に声をかけると、振り返った瑞樹が「あー」と困ったように唸る。
ゆっくり歩いて寄ると、「わり、暫くあんまり会えねえかも」と言われた。
「文化祭だししょうがないよ」
「んー、そうだな。今日もうち来る?」
「うん」
「そうか、じゃ鍵渡しとくわ、ちょっと待ってろ」
たまに不思議に思う。セフレって言葉だけで表すには浅はかではないか、とか、そんなんだけじゃないんじゃないか、とか。或いは期待なのかもしれない。
恋愛ではない情や信頼を抱くことが出来れば、一定の限られた枠を超えられるのではないかという、それこそ浅はかな期待なのかも。
戻ってきた瑞樹が鍵を手渡してくる。「ありがとう」と礼を言って受け取り、下校した。
瑞樹は多分まだ居残りで文化祭準備を手伝うのだろう。意外とそういうの好きそうだしなあ。
帰り際、小さな女の子が父親と手を繋いで楽しそうにしているのを見て無性に胸が締め付けられるような気分になった。別にいっつもそんなこと思わないのに、って思うと余計に嫌な気になって、それがまた自分を嫌いだと思う要素になる。
瑞樹の家は結構古いアパート。なんで一人暮らししてるのかって深く追求したことはないけど、家庭環境が良くなくて親に追い出されてここに住んでるみたいなことは言っていた。家にいると暴力振るって危ないから捨てられたんだよって。
そのときは危険生物じゃんって笑ったけど、なんかあるんだろうなあ。言いたくないこと。言えないこと。私もある。