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甘蜜トラップ
第3章 感情と強制




聞き覚えのある叫び声。前田さんだ。
ミッキーは瑞樹ということになる。

私たちがいるところより下の階におりたのだろう、先程目の前を通り過ぎたような気配を感じた。

周りに人がいないことを察してか柳瀬は私から離れた。距離をとって、また煙草を銜えて。私はその姿をじっと見ていた。


「なにその顔」

「な、なんで?」

「動揺するんだからお子様だよ。真っ赤な顔して可愛いじゃん」

「……っ、大人とか子供とか、関係ないよね? なんで? 嫌って言ったのそっちじゃん、嫌だったらあんなキスしない……と思う」

「分かってるのにわざわざ言わせるんだ」


はは、と笑う。
いいように躱されている気しかしない。
なにも分かってないよ。

唇を噛んでも唾を飲み込んでも煙草の味がする。柳瀬の味なんだと思った。


「お前、なんか感じてないの?」

「え?」

「あの2人。浅木は見てたのに助けなかったんだよ」

「……別に、瑞樹に助けてもらいたいとかそういうのないし」


恥をかいた。
見てたんだな、って思うと。
山中のことを瑞樹にあまり深く言ったことがなかったのもあって、後々察されるのってなんとなく嫌で。


「でも浅木は前田のことも助けなかったからプラマイゼロだよ」

「全然嬉しくないっていうかなんで柳瀬は私のこと庇ったの? 放っておけばいいのに。裏階段で泣いてるーとか思われるだけだよ。先生に迷惑かけて……って」


はあ、と。
ため息をつくのが聞こえた。呆れられたのだろうと察する。煙草をまた灰皿に捨てて、またため息をつく。

柳瀬の手が伸びてきて、頭の上に乗せられた。てのひらが頭のてっぺんを包むように。


「橘は急に知りたがりになったよね。どうして? 俺は女生徒と2人でこんなところにいる姿を人に見られたくなかっただけだよ。こんな格好だしバレないでしょ。橘が望む通りキスしたのに、気に入らなかったかな。ごめんね」


わしゃわしゃと撫でられる。
胸の奥がぎゅうっと掴まれるように痛かった。





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