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甘蜜トラップ
第3章 感情と強制
「まあ明日日曜だしね。て言っても学祭中だけど。月曜は振替休日だから仕事の方も余裕あるし」
「そういう問題なの? 良いの?」
「良くないから小声で話してるんだけど」
「……だよね」
落ち着かない。
急に緊張感に襲われて、さっと勢い良く立ち上がった。
「どうしたの」
「ありがとう、柳瀬」
「他言無用だよ」
「分かってる」
吸って捨てて吸って捨てて、ヘビースモーカーだなあと思いながら私は一歩進む。逃げてるばっかりじゃ戻るもんも戻らないよね。
瑞樹との関係が戻らなくてもぶつからないで悩むのは馬鹿なのかも。駄目だったらそれが結果で私のそばからいなくなって、一人ぼっちになって……それって瑞樹が転校してくる前と同じになるだけだ。
「橘」
「?」
「頑張りな」
「まじでこれ超贔屓だよね、笑っちゃう」
嬉しい。そう思ってしまうのはいけないことなのかもって思ってるのに、制御できない。
階段をおりると前田さんはいなかった。終わったのか、と察しながらひとりぽつんとスマホをいじっている瑞樹の背中に声を飛ばす。
「瑞樹、なにしてんの」
「千歳か、お前こそなにしてたわけ? 上で。誰かと一緒だったんだろ?」
「別に、瑞樹こそ誰かといたんじゃないの」
「知ってるくせによく言うわ」
はは、と笑う。
その笑顔を見て少し安堵した。
我ながら単純だ。
「前田にさ」
「うん」
「頼まれて、っつうか……その、お前みてえな関係でいいからって言われて」
「うん」
「昔みたいに戻れなくていいって、だから、悪いな。俺もさあ泣かれるとちょっと弱いんだよなあ……典型的って感じだけどやっぱほっとけねえなって、思った」
「瑞樹って本当馬鹿だよね」
昔みたいにってよく分からないけど。私が知る瑞樹はこの学校に来てからセフレしかいない男だったから。もしもそれ以前を前田さんが知っているのならそれは羨ましい、と思う。心底。
瑞樹の横に座り込んで脚を伸ばす。階段の下りに合わせて斜めになって、座った感覚は苦もなくちょうどよかった。